「ただいま」
一人暮らしのアパートだというのに、律儀に帰りを知らせる挨拶を口にする。これは何も、昔からの癖だとか、一人でもきちんと挨拶をする習慣があるだとか、そういう理由ではない。
「おかえりなさい、道哉さん。すぐに夕飯できるからね」
玄関を開けてすぐにある狭い台所で、フライパンを振る同居人がいた。同居人、と言って果たしていいものだろうか。
「……こんなガタイのいい男が手料理を作って部屋で待ってるこの状況に、すっかり慣れてしまった自分が怖いぜ……」
「やだあ、褒めても何も出ないわよ」
「褒めてねえよ」
狭い廊下兼台所を通り過ぎ、部屋に入る。
「あ、おかえりなさいッス」
数々の面々がトランプに興じていた。
「…………どうしてこうなった」
事の始まりは春にさかのぼる――
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