目を開けると、真っ白な世界が広がっていた。
「……眩しいな」
視界にある全てのものが発光しているようだった。あまりに眩しくてしっかりと目を見開くことができない。
「……源内さん!」
右側から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。確かこの声は、谷口の声だ。
だんだんと目が慣れてきた。白い天井に白いベッド。どうやらここは病室のようだ。声のした方を向くと、確かに谷口がいた。
「俺は、いったい……」
意識が無かった間、どうなったのか俺はまったく覚えていない。谷口に覆い被さるようにして倒れてから、そのまま今につながった感じだ。記憶の喪失は、決して長閑なものではなく、とても怖かった。まあ別に変なことをされたなんてことはないと思うが。
「……あの後、源内さんが倒れた後、とりあえず救急車を呼んだの。息はしていたけど意識がなかったしね。で、ここで怪我の治療をして――」
そこまで聞いて俺は思い出した。そうだ、俺は何ヶ所も傷を負っていたのだ。特に右腕の怪我は酷かったはずだ。肉までざっくりと切られていたはず。
「――意識を取り戻すまでここで様子を見ましょう、ってことになったの」
俺は右腕に目をやった。そこには、白い包帯が巻かれていた。身体中を見回し、左腕と脇腹にはガーゼが貼られていた。どうやらこの二ヶ所は大した怪我ではないらしい。左足の小指は、切り傷がそのままになっていた。線のような瘡蓋ができてしまっている。
「……お前は、大丈夫なのか?」
谷口も怪我を負っているはずだということを、俺のバカな頭は思い出した。アイツはもう一度、左手首を切ったはずだった。
「……うん」
谷口は左手首を俺に見せてくれた。俺の右腕同様、真っ白な包帯が巻かれている。命に関わることではないようだ。
「……その、ごめんな」
「うん」
「……俺はもう、周りからどう思われたっていい。お前を見習う。周りがどう言おうと、言いたいヤツには言わせておけばいいと思う。誰が何と言おうと、俺はお前と一緒にいたい」
「うん」
「日本海でも富士山でもアメリカでも、どこにだって俺が連れて行ってやるよ。だから、また俺の後ろに乗ってくれ」
「うん」
「あー、でもアメリカまで二人乗りでは難しいな。さすがに自転車で海を渡る方法は知らないしな」
「そうだね」
そうして、俺たちは笑った。本当に久しぶりに見た、谷口の笑顔だった。
「また、一緒に行こうな」
「うん」
そうして俺たちは、板橋に目撃される前のような関係に戻ったのだった。
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