真っ暗な世界の中で、俺はたくさんの夢を見た。
子供の頃の夢。俺は物心ついた頃から兄のことを嫌っていた。何かにつけて兄と比較されて、ただただ悔しかった。羨望の眼差しはなく、ずっと兄に対して腹が立っていた。最近では引きこもりの社会不適合者として蔑んでいた。兄が良い人間でも悪い人間でも、俺は結局嫌ってしまったのだ。まぁ兄弟なんてきっとどこでもこんなものなのだろう。けど、今回のことでちょっとは見直したな。目が覚めたら、謝るとまではいかなくても、今までとは違う見方をしよう。兄もそれでわかってくれるだろう。
中学の頃の夢。練習が終わったあとも、いつものように俺と松尾の二人で残って練習をしていた。アイツはすごい努力家だった。俺が知る限り、アイツ以上に努力を重ねる人間を見たことはない。俺もアイツを見習って、少しは努力をしてみよう。赤点を取らないように勉強もしなければならないし、谷口の期待に応えられるように日本中どこだって連れてってやりたい。アイツの努力が、いつか報われればいいなとは思う。
高校の夢。ある昼休みに、俺が西原と谷口と一緒に飯を囲んでいる。西原も谷口とすっかり打ち解け、普通の級友として三人で過ごしている。西原だって俺の気持をわかってくれるはずだ。蔑むヤツは勝手にさげすんでいればいい。俺たちは谷口のように、自分の芯を通すことができるはずだ。明日、西原にこの考えを教えてやろう。板橋にだって、好き勝手言わせておこう。
そして俺は、それから夢を見ずにただただ眠り続けていた気がする。
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