不健康な人達 03


 俺は帰りに本屋に寄って、谷口の読んでいた本を探してみた。
 俺はあまり本に詳しくはなく、タイトルだけで著者が分からないのはもちろん、一ページ目をちらっと見ただけで出版社が分かるようなことはなかった。仕方なく、文庫本が置かれている棚を片っ端から見ていくことにした。店員に聞くのも何だか恥ずかしく感じられたし。
 端から順に目をやること約五分、ようやく目当ての本を探し出すことができた。俺はその著者の名を耳にしたことがなかった。あまり有名な人物ではないのかもしれない。まぁこれは俺があまり文芸の世界に明るくないからかもしれないが。
 俺はその本を購入した、衝動買いだ。そういえば生まれて初めて自分の金で小説を買ったのではないだろうか。親が買ってきたものなら何冊かはあるのだが、自分から本を読もうとしたことは今までなかった。親に逆らえずにいやいや読まされたり、夏休みの宿題の読書感想文を書いたりだとか、俺にとっての本とはそんな扱いだ。まぁ漫画なら人並みに読むけどさ。
 家に帰り、早速買ったばかりの本を開いてみる。

 途中で夕飯をまたぎ、俺がその本を読み終わるのにはたっぷり六時間が経過していた。今までろくに本を読んだこともなく活字に対して嫌悪感さえ抱いていた俺にしては、なかなかに速いのではないだろうか。今までは小学生向けの本でさえ、読み終えるのに一週間を平気で費やしていたのだから。けど今ならもう少し早く読めるとは思う。
 その本は、ある女の子が主人公の、一人称で進んでいく話だった。こういうのって何て言うんだっけ――あぁ、そうだ。私小説というやつだ。国語の授業で習ったような気がする。あまり発言することはない、控えめな主人公。けれど、心の中ではいろいろなことを考えている。高校に通っていて、クラスではほとんど誰とも喋らずに一人一人を心の中で格付けしているような、あまり健康的ではない小説だった。
 あぁ、この主人公は似ている。誰に似ているかと訊かれたら、それはもちろん俺と谷口だ。いや、谷口に至っては想像だけどな。クラスの中心にいるような派手派手しい人物ではない。むしろ大人しい部類に属する人間。けれど、周りのことを静かに毒づいている。あぁ、まんま俺じゃないか。
 さて、谷口はこういう小説に興味があるのだろうか?


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