九月一日。今日から俺の通う高校は二学期に突入した。
夏休みの間は一度も会わなかったが、相変わらず西原との付き合いは続行だ。まぁ無意識の中の俺が勝手に行ってくれるので、続行という言い方はおかしいかもしれないが。
俺はクラスを見回してみた。欠席者はいなく、ある女子生徒が遅刻してきたという三日後には忘れていそうなどうでもいい情報を脳が一時的に認識した。終業式やテスト(この高校は変に進学校気取りで、二学期の初日から実力テストを強制してきた)を上の空で過ごしている最中、何気なく、本当に何気なく、谷口の姿を視界に捉えた。
そろばん屋敷から偶然見かけて以来、谷口と今日まで会うことはなかった。二通目の手紙が届くこともなかったし、電話も掛かってこなかった。二週間ぶりぐらい、かな。
その二週間ぶりに見る谷口は、少し元気がないように思えた。いや、二週間前に見た谷口だって、その姿を俺は完璧に覚えているわけではない。何しろ、窓を開けて声を掛けようとされた瞬間に、俺は飛び出すようにして逃げ出したのだから。谷口がいる、ということしか視界は捉えていない。それ以外の情報は重要視されなかったからな。よって俺が最後にはっきりと顔の表情のついた谷口を見たのは、六月の終わりに俺が学校を休んだ翌日だ。俺が谷口の話を上の空で聞き流し、沈黙を貫き通したあの日。けれど、あの日だって俺はすぐに逃げ出した。そうだよな、そんな突然そんな態度とられたら、誰だって気にするよな、元気だってなくなるよな。
「……おい、あんまジロジロしてっとカンニングとみなすぞ」
試験監督である体育教師のドスの聞いた声で、俺はあわてて視線を戻した。
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