不健康な人達 33


 放課後、俺はもしかすると谷口に話しかけられると思い、逃げるように帰った。
 そしてそれから、谷口は日に日に元気がなくなっていくような感じだった。俺に話しかけられる前は自ら孤独を望んでいたというのに、一度人と付き合うということを覚えてからは前の生活には戻れないのだろう。裕福な人間がいきなり貧乏になると、金持ちだったころの生活を忘れられずに生活できなくなってしまう、という話を聞いたことがある。まさにそれだ。一度良いものを見てしまうと、今までの悪いものを直視できなくなってしまうんだよな。
 かといって俺はどうすることもしなかった。谷口は休み時間などに俺に話しかけることはなかった。放課後は俺がまっすぐ帰ってしまうし、以前俺たちの交流はなかった。
 ある日、授業中に何気なく谷口に視線を向けると、手首に包帯が巻かれているのを発見した。これはもしや、リストカットというものだろうか? 手首をナイフか何かで切りつける、自害方法の一種だろうか? どうやら谷口は超えてはいけない一線を超えてしまったようだ。それにしても、よく自分で自分を傷つけられるな。俺だったら怖くてできないね。リストカットをすると、そこから血が滲み出て、激しい痛みを伴うと聞いたことがある。無理です、俺にはできません。怖いです。

 そうして谷口は今日も寂しそうに一人でじっとしているのだった。


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