「谷口、いるのか!?」
叫びながら、俺は勢いよくドアを開けた。
「え……?」
いた。部屋の中に谷口はいた。
額の汗を拭って、俺は谷口の姿をよく見る。……腕に包帯を巻いている。寝巻きのような服装だ。凶器らしきものは持っていないようだ。どうやら自殺を企んでいる様子はないと見てよさそうだな。
「…………」
俺は何と声を掛ければいいのかわからなかった。俺が頭に描いてたイメージでは、間一髪で谷口の自殺を食い止め、格好よく説得するというものだった。しかし、谷口は自殺など企んではいないようだった。……これではただの押し入りじゃないか。
「……源内さん? なんで?」
そりゃぁ驚くよな。呆けてしまうよな。
今は五限にあたる時間、理科Bの授業の真っ最中だ。谷口からしたらそんな時間に俺がいきなり自宅の自室に入り込んできたんだから、そりゃぁ驚きもするだろう。つーか、別に何もないんだったらベル鳴らしたときに出てくれればよかったのに。
「いや……その、だな……」
俺しどろもどろ。何言ったらいいんだろうな。
「……今まで全然話してくれなかった。私のこと無視し続けた」
谷口が、どこから出せばそんな声が出るのかというような奇妙な声で言った。
「……何で、ここに来たの?」
何でって、そりゃあ……。
「…………」
俺がここに来たのは、谷口の自殺を食い止めるためなのか? 違うだろ。もっと大事なことがあるだろ。俺は伝えたいことがあるからここに来たんじゃないのか?
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