俺はことの経緯を全て谷口に話した。なるべく端折らず、事細かに説明した。一緒に空港に行ったのを板橋に目撃されたことから、夏休みに谷口を避け続けたこと、兄と西原に諭されてこうして謝りにきたことなど、全てを話した。
「……で?」
「いや、それで終わりだが……」
谷口はまだ俺に何かを求めているようだ。話は一通りしたと思うんだが。
「別に、私のことを嫌いになったとか、そういうんじゃないのよね? 他の人に噂されたくないから、ただ避けていただけなのよね?」
「……うん」
「じゃぁ、まずは一安心だわ」
谷口は俺の今までの行動に、とりあえずは納得してくれたようだ。俺も少し安心した。
「……でも、」
でも? やっぱこれだけでは終わらないよな。
「でも、私は今の今まで不安だったの。とても怖かったの」
そう言って、谷口は包帯の巻かれている左腕を俺に突き出した。
「……このままだったら自殺しようとも思った」
やっぱりリストカットだったんだ。自殺を企んでいたんだ。もし俺が今日谷口と会わなかったら、本当に取り返しのつかないことになっていたかもしれないな。
「……悪かった、すまん」
「うん。『すまん』以外にもさ」
「ごめん」
「…………」
俺は国語の成績だってあまりよろしい方ではない。はっきり言ってバカなほうだ。こういうときに俺は何と言えばいいのかわからない。これ以外の謝り方なんて思い浮かばなかった。俺は谷口と違って、あまりボキャブラリーが多くはないのだ。
「……うまくは言えないけどさ、悪かったと思ってる。本当に」
「…………」
「あー、何て言えばいいんだろうな。俺が今まで厚顔無垢だったのは恥ずべき――」
「厚顔無恥ね」
「あー、うん。厚顔無恥だったのは恥ずべきことだ。許してくれとは言わない。厚かましいか――」
「嘘つき」
またも谷口は言葉を遮った。嘘つきだと?
←前のページへ 次のページへ→
戻る