「許してくれとは言わない?」
「……ああ。一方的に俺が悪かったからな。許して欲しいなんて請うほど恥知らずなことは……」
「それが嘘つきだって言ってんのよ。恥知らず? 自分で厚顔無恥とか意味もわからず使っておきながらよくそんなことが言えるわね」
意味は知っているさ。あつかましくて恥知らずって意味だろう? ちょっと発音を間違えただけじゃないか。まぁ無垢だと意味も変わってくるかもしれないが。
「今まで私に酷いことをしたと思っているんでしょう? だったらそれは恥だとは思わないかな?」
「思うさ、存分に思っている。だから許してくれとは請わないまでも、せめてもの尻拭いとしてこうして謝りに……」
「だったら、何で今さら恥知らずだなんて言うのさ!」
谷口は声を荒らげた。谷口の言葉に感嘆符がつくなんて珍しいんじゃないかな。
「そりゃぁ私だってたまには大声を出したりするわよ。それより、さっきのあなたの言葉よ。今さらになって尻拭い? ふざけるのも大概にしてよ」
「ふざけてなんかないさ。俺は心の底から悪かったと思っている。お前を自殺に追い込んでしまうほどに傷つけてしまったんだ、許してほしいなんて言えるわけがないだろう」
「それは体面的なことでしょう? あなた自身はどう思っているのよ。私に悪いとか、そういうのはヌキにして。大体、何で学校抜け出してまで謝りに来たのよ?」
「悪いことをしたからな。謝らなければ気が済まなかったんだ」
谷口は俯いてしまった。俺、何かいけないこと言ったのかな?
「……帰って」
「へ?」
「帰れって言ってるのよ。私の部屋から出てって!」
「え、いや……」
「いいから出てけって言ってるでしょ!」
谷口は早口でそう言うと、立ち上がって机の一番上の引き出しを開けた。そして中からカッターナイフを取り出した。おいおい、マジかよ。
「もう出ていけ! アンタの顔なんてもう拝みたくないわ!」
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