「……俺は口下手だから、遠まわしに格好つけて言うことができない。だから、はっきりと言わせてくれ。……谷口、また一緒に行こう」
俺はそう言って谷口を抱きしめた。脇腹をナイフの刃が掠め、谷口は手からナイフを落とした。それが俺の左足の小指を少し切ったことは黙っておこう。右腕から流れる血で、谷口の背中の辺りを汚してしまっている。やべー、格好悪いことこの上ないな、俺。いくら何でも情けなさすぎだろ、これは。
「海だって山だって外国だって、どこだってまた一緒に行こうぜ。後ろに乗せてどこまでだって行く。もうあんなことはしない。だから……」
あまりの痛みに、俺は少し意識が朦朧としてきた。
だが、これだけは言っておかねばならない。なので、俺は言った。
「……だから、許してくれ」
言えた。こうまでしなければ素直に言えなかった俺が恨めしいことこの上なしだ。
「…………」
俺の耳元で、何かが聞こえた。谷口が何か言ったのだろうか。だが、俺はそれを聞き取るだけの余力が残っていなかった。意識の混濁が激しくなってきた。頭が重い。ああ、これは絶対出血多量だ。ダラダラと血が流れ続ける。もしかして、ひょっとすると、これ、俺、死んじゃったりしないよな?
俺は谷口に覆い被さり、そしてそのまま前に倒れた。谷口を押し倒すような体勢で。
そしてそれと同時に、意識が途絶えた。真っ暗な闇の中に落ちた。
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