射止めろ!石油女王 03


 左乳首事件の翌日、実家に呼び出された。新しいテレビを入手したからセッティングを手伝ってほしいという名目で呼び出されている。決して左乳首事件の一件が親の耳に入ったからではない。……え、違うよね? あいつらチクったりしてないよね? 別に悪いことしたわけじゃないけど、それを問い詰められたら、俺ちょっと平常心を保っていられる自信ないなあ。
 普段は一人暮らしをしていて、アパートから通勤しているが、実家が遠いわけじゃない。電車で四十分ほどだ。この話をすると、「なんで一人暮らしなんかしてんの?」と訊かれることも多々ある。

 だってさ、男の子だもん。実家にいたら、何かと不都合だってあるじゃないですか。女の子とにゃんにゃんする時って、どうしてるのさ。毎回毎回ラブホ行くの? そんなんいつもしてたら費用だって半端ないですよ。あれ、それともまさか、そんなにいつもいつも致すわけじゃないのかな? あとホテルへ連れ込む方法も今一つ分からないよね。女の子と付き合えてて「さあ、今日はするぞ!」って気軽に言える関係を構築できていれば問題ないだろうけど、得てして常にそういうものでもないじゃないですか。そうするとやっぱり男たるもの、自分の城が欲しいわけですよ。実家に住んでたら、その、ねえ? にゃあにゃあ鳴く声が母親の耳に届くわけですよ。そんなん俺は無理ですよ。はじめてエロ本が見つかった時なんて、二日は家に帰らなかったからね。

「拓真……アンタって今、何歳だっけ?」

 母親からの突然のクエスチョン。息子の年齢を把握していないとは、何たる不行届者……なんてことは考えたりはしない。

「えーと……今年で24歳だわ」

 なんせ自分ですら、少し考えないと出てこないのだから。だってそうでしょ? 俺だけじゃないでしょ? 20歳を超えたら、年齢を重ねる楽しみなんてないじゃないですか。成人してようやく酒が飲めるようになって、あと解禁されることってないからね。65歳の年金受取解禁くらい? それだって俺がその年齢になる頃にはどうなってるか分からないですよ?

「そっか。彼女とかはいないの?」

「いたら居酒屋で左乳首見せたりしてないです」

「は? 何の話?」

「いやなんでも」

 おっと、妙なことを口走ってしまった。

「そういえばこの前聞いたんだけど、アンタのイトコの同級生の鉄雄くん、今度結婚するんだってね」

「へー……」

 誰だよ! いやマジで。
 イトコの大和ですらそんなに仲が良いわけじゃないのに、その同級生って、本当にどこの誰だよ!? 聞いたこともないわ!

 あ、念のために言い訳しておくと、イトコの大和とそんなに仲が良いわけじゃないってのは、何も犬猿の仲だとかケンカしているだとか、そういう話じゃあない。断じて。母方の実家は北海道にあるから簡単に会える距離じゃないし、それに加えてイトコの大和が人見知りであんまり話してくれないからだ。まあそんなものだよな。年上の男となんて、何話していいか分からんよな。だから決して、イトコの大和と仲が悪いわけじゃあないのだ。「イトコの大和」って何度も口に出して言うと、リズミカルだよな。ちょっとラッパー気分。


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