「由愛(ゆめ)、アンタまた授業中にトリップしてたでしょ」
放課後、帰り道。あたしたちは横に並んで歩いていた。少しだけ未亜の方が、背が高くて、影の高さは同じにはならない。そうして緩やかな西日が射す中、未亜はさっきの授業中のことを話題に持ち出した。
「え、そんなコトないって。やだなぁ、あはは」
「……バレバレなんだから、嘘なんて吐かなくていいじゃない」
あたしと未亜は近所に住んでいる。小学校に上がる前から、あたしたちはよく一緒に遊んでいて、いわゆる幼馴染ってやつだ。小さい頃からずっと仲が良くて、今の高校まで同じクラスだ。もう何年も一緒にいるからか、お互いのことはよく分かっている。「あ」と言えば「うん」、「つー」と言えば「かー」なのだ。……ちょっと古いかな。
「つー」
「なに? どうかしたの?」
……仲良しなのは本当なんだから。と、思わず誰にするでもない言い訳をしてしまう。
「ねえ、由愛。今日は何を考えてたの?」
「もちろん、新しい小説だよ」
小さい頃から、小説家になるのがあたしの夢だ。いつからだったかよく覚えてないけど、あたしはとにかく本が大好きで、自分でもよく書いていた。それを職業にしたいと思ったのは、確か中学生になったあたりぐらい。その頃からいろいろと書いては、賞に応募したりしていた。まあでも、佳作にだって引っかかったことはないんだけど。
「今書いてるのができたら、また読んでくれる?」
とにかく好きで、変な表現をすれば、色々と書き散らかしてきた。そしてその度、あたしは未亜に読んでもらって、感想を聞かせてもらっていた。
「もちろん。由愛の話は面白いからね」
あたしの読者は、まだ未亜しかいない。それでも、読んでくれる人がいるから、話を書き続けられる。本当にありがたいことだと思う。
「あ、今日も商店街寄ってくけど、由愛も行く?」
「うん」
迷うことなく頷いて、商店街へと向かう。
ほら。「あ」と言えば「うん」と返す。あたしたちはそういう仲なんだ。
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