「あっれー、１号と２号じゃんか！」

　未亜の夕飯の買い出しに付き合い、帰る途中で誰かに呼び止められた。声の主に顔を向けると、そこには同じクラスの友達がいた。商店街の一角、長机を挟んでガラガラの後ろに彼女は立っていた。あの福引のやつ。ガラガラって正式名称でいいのかな？　きっと売り子でもやってるんだろう。……でも福引って売ってるわけじゃないから、売り子って言うのも変な気がするな。
　ちなみに学校であたしのことを「由愛」って呼ぶのは、今のところ未亜しかいない。……たぶん、後にも先にも。同じように、未亜のことを「未亜」って言うのも、あたしだけだ。他のみんなはあたしたちのことを「１号」「２号」って呼ぶ。なんでかって言うと、それはあたしたちの苗字が一緒だからだ。二人とも、『一』(にのまえ)。珍しい苗字だけど、あたしたちは別に親戚ってわけじゃない。単なる偶然だ。名前の五十音順で、未亜が１号、あたしが２号って呼ばれている。

「どう？　福引やってかない？　同級生のよしみってことで、二人とも特別に回してっていいよ？」

　あたしたちはその子の好意に甘えて、引かせてもらうことにした。あ、その子って名前なわけじゃないよ？　えーと、確かこの子の名前は……

「ありがと、麻衣(まい)」

　未亜がそう言った。思い出した、麻衣ちゃんだ。別に忘れていたワケじゃない。ちょっとド忘れしてただけ。……本当だよ？
　まずはあたしからと息巻いて、ガラガラを回した。その狭い穴から出てきたのは、何の変哲もない赤い玉。

「おめでとう、やったね！　はい、景品だよ！」

　麻衣ちゃんがそう言って手渡してくれたのは、駅前で配られてても何ら違和感のない、ただのポケットティッシュ。別にくじ運がいい方だなんて思ってはないけど、ちょっと残念。いやいや、そもそもサービスで引かせてもらったんだから、それだけでもありがたいと思わなくっちゃ。誰かが悪いわけじゃないもん。強いて言えば、あたしのくじ運が悪かっただけだ。日頃の行いが悪いとか言うな。

「じゃ、１号もどうぞ」

　次は未亜の番だ。前に出て、さっきあたしがしたように取っ手を握った。そして勢いよく回す。

「……あれ？」

　何も出なかった。もう一回転。しかしまたしても、穴からは何も出てこなかった。

「１号……それ、逆回しだよ」

　顔を赤くして「ごめん」と謝る未亜。いつもクールでかっこいいだけに、たまにこういう表情を見られると、あたしはすごく幸せな気分になる。普段は見せない、珍しい顔。恥ずかしがる未亜、かわいい。
　今度は時計回しに回した。トータル三回転の後にようやく出てきたのは、あたしの時と違って、鈍く光る黒い玉。

「おお、おめでとう！　２等だよ！」

　カランカラン、と鐘を鳴らして祝ってくれるその音で周りの人たちも、あたしたちに集まってきた。

「はい、景品のワープロだよ！」

　そう言って彼女は、未亜に大きい箱を手渡した。中にワープロが入っているみたい。

「でも２等でワープロって……」

　思わず本音をこぼしてしまう。

「あんま大きな声じゃ言えないけどさ、商店街の福引なんて、いらない在庫品の押しつけみたいなもんだからねー」

　いや、麻衣ちゃんの声量は比較的大きい。集まってきた人たちの中からは、ゴホン、ゴホンなんてわざとらしい咳払いも聞こえてくる。……ひょっとして、あんまりよろしくない雰囲気だったりするのかな？
　そうは言うものの、その押し付けられたワープロを手にした未亜は、ご満悦の表情。そっか。今まで家にパソコンとかなかったもんね。