「読んで」
始業のベルが鳴る前の、わずかな朝の休み時間。未亜があたしの席にやってきて、いつもの「おはよう」というクールビューティーな挨拶をすることもなく、数枚の紙を手渡してきた。少し頬を赤らめて、どこか照れているようだ。今朝は照れビューティーなのか。ふむふむ。
「なに、ひょっとしてこのあたしに、ラブレターですか?」
「……言ってて恥ずかしくならない?」
どうやら照れはどこかに行ったみたいだ。冷静さを取り戻して、ツッコミをいれてくる。いつものクールビューティ―だ。クールにツッコまれたことで、今度は逆にあたしが照れてしまう。……今のあたし、ひょっとして照れビューティー? あ、ビューティーの要素はあたしにはないか。
「あたしにもビューティーさがあればなぁ……」
「何の話よ? ほら、それよりコレ」
未亜が差し出した数枚の紙を受け取った。目を落とすと、飛び込んでくるのは文字の羅列。
「……ひょっとして、これ、小説?」
「うん」
早い。まさか昨日の今日で、もう書き終えて持ってきたなんて。あたしなんか一つのお話を書くのに、一か月とか二か月とか、もっと長いことだってあるのに。それが遅いなんて、今まで考えもしなかった。いや、これは未亜が速いんだよね? 別にあたしが遅いんじゃないよね?
「……はやすぎじゃない?」
「書き出してみたら、思ったより進んじゃって……」
よくよく見てみると、未亜の美しい顔についているつぶらな瞳の下が、気持ちわずかではあるものの、少し黒くなっている。ひょっとして徹夜で書いてきてくれたのかな。
「ありがとう、読ませてもらうね」
そうしてチャイムが鳴って、未亜は自分の席に戻った。
あたしは一日中、授業内容なんてまるで耳に入らず、勉強そっちのけで――普段からそうだけど――ひたすらに彼女の小説を読みふけった。
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