夢を追う蛙、捨てたがる蜻蛉。


 あたしは2号で、未亜は1号。周りからはそう呼ばれることが多い。ただの五十音順だって周りも未亜も言うんだけど、あたしはそれ以外の理由があるんだろうなって思ってる。
 あたしはいつだって、未亜の後を追っていた。未亜はなんでもできる人だ。勉強もスポーツも。あたしは何一つ、未亜に勝てない。そういう意味での、「1号」「2号」でもあるんだと思ってる。別にあたしが「1号」って呼ばれたいだとか、そんなことを考えているわけじゃないけど。
 あたしはそんな未亜に、いつも憧れていた。何でも簡単にこなしてみせる彼女は、憧れの存在だった。あたしが彼女の親友でいられることが、誇りだった。彼女に追いつきたいと思う反面、彼女にはいつまでも前を走っていてほしい。そうも思っている。
 だからあたしが雑誌で読んだ時も、凄いとは思っても、あり得ないとは思わなかった。

  大賞 『檻の中の烽火』 一未亜(17)

 ……ちなみに、隅々まで探したけど、あたしの名前はどこにも載ってなかった。


「ねえ、未亜! 見た? 見た?」

 興奮したまま、あたしは未亜にその雑誌を押し付けた。

「ちょっと、いきなり何? 見えないから。近過ぎて見えないから」

 教室で騒がしくしてるのはいつものことだからか、クラスメイト達は一瞬あたしたちの方を見るけれど、すぐにそれぞれのことに戻っていく。授業中はさすがに咎められるけど。

「いや、この、雑誌、をね」

「……もうそれはいいから。デジャヴュだから」

「ほら、未亜の名前載ってるよ。大賞だって」

 見つけた記事を、指さして見せる。

「ああ、うん。出版社から電話来たもん」

「……えーと、未亜さん? どうして、そんなに冷静でいられるんでしょう?」

 思わず丁寧な口調で訊いてしまう。なんでこんなにあたしだけ慌てふためいてて、本人はいたって冷静なんだろうか。不思議でならない。

「まあ電話もらってから少し経ったからね。そりゃ私だってびっくりして、なかなか寝られなかったわよ」

 思わずその様子を想像してしまう。きっと電話をもらって喜びに飛び上がって、顔を赤くしながらベッドの上を転がったりしたんだろう。……うん、何というか、非常に微笑ましい光景だ。

「……別に由愛が考えてるみたいに、ぬいぐるみ抱えてベッドの上を転がり回ったりなんてしてないからね」

 あれ、あたしまだ何も言ってないのに。これはひょっとしてひょっとすると、ひょっとするのかもしれないのかな……?

「ちょっと、何よその目は」

「いや、別に。なんでもないよ?」

 目を細めて、言いたいことがありそうな雰囲気を満々に出してそう答えてみる。不満そうな顔をされたけど、特につっこまれることはなかった。きっと未亜も、こういう風にからかわれたくないんだろう。少しごまかしておいた方がいいかな。

「知ってたなら、教えてほしかったなー、って」

「あ、ごめん」

 そんなつもりじゃなかったのに、謝られちゃった。

「ともかく、おめでとう! 未亜、スゴいじゃん!」

「ありがと」

 少し顔を赤くしながらも、素直に受け取った。でも正直なところ、ここから先どうなるのかが、あたしが気になっている、訊きたいことだ。

「でさ、これからどうなの?」

「え? どう、って?」

「なんかさ、受賞した記念とかさ、出版とかさ」

 あたしも色々な新人賞に応募してきたけど、いまだに一次選考すら通過したことがないので、賞をもらったらどうなるのかなんてのは、よく分からなかった。完全に未知の世界。

「えーとね、今月末に授賞式があるんだって。それで東京に行ってくるよ。それから今後の打ち合わせとかもするんだって」

 あたしたちが応募した賞は、それなりに有名な賞で、授賞式も東京の大きなホテルで行うらしい。田舎者のあたしたちでも聞いたことがあるようなホテルだ。

「スゴいね。何着てくの? 言っちゃえばパーティーみたいなもんでしょ? やっぱりドレスとか着てくの?」

「いや、そんなの持ってないし。普通に制服で行くと思うよ……?」

 あたしが考えていた式とは、ちょっと違うみたい。


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